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- 教授挨拶 【医療政策学講座の軌跡と展望】
村上 正泰
医療政策学講座は2004年に設置されたが、初代教授の清水博教授が2007年に辞職したため、暫くの間、他の教授が兼務する体制となり、専任の教授が不在の期間を経た後、2010年に私が教授に就任し、現在に至っている。少子高齢化・人口減少の進展という社会経済構造上の大きな人口変動が日本社会を襲い、医療・介護を始めとする社会保障制度の在り方が問い直されている中にあって、当講座は、人口動態を背景とした疾病構造の変化や医療の技術進歩等を踏まえながら、医療資源の適正配置を通じた質の高い医療提供体制の構築と持続可能な医療保険制度の運営に関する研究に取り組んでいる。具体的には、特に下記のような諸課題を中心に、医療経済・政策学の観点から研究している。
(1)医療費の経済分析
(2)診療報酬・薬価制度に関する政策評価・医療経営影響分析
(3)医療技術の経済評価
(4)医療分野におけるイノベーションを推進するための産業政策
(5)質の高い医療提供体制を構築するための医療資源の適正配置
(6)地域包括ケアと地域医療連携システム
(7)持続可能な医療保険制度の在り方と財源論
これまでの10年間の取り組み
(1)地域医療構想の実現と医師の適正配置に向けた政策研究当講座の取り扱う研究分野は多岐にわたるが、この10年間で特に力を注ぎ、当講座の存在意義とも言えるのが山形県における地域医療構想の実現と医師の適正配置に向けた政策研究である。当講座では、山形県健康福祉部の支援を得て、2012年度以来、継続的に山形県内の全てのDPC病院・準備病院からDPCデータ(患者ごとの様式1、入院・外来EF統合ファイル、Hファイル等)を独自に収集し、データベースを構築してきた。現在は、DPC病院・準備病院だけではなく、データ提出加算を算定し、厚生労働省にDPC準拠データを提出している病院からもデータを収集している。その結果、従来のような高度急性期・急性期だけではなく、回復期・慢性期も対象に含まれており、合計で県内全一般病院53病院の83.0%に当たる44病院をカバーしている。県全体の医療提供体制を把握し、各病院の診療機能や地域における患者の受診行動を比較・検討する上で有効なデータベースとなっている。当講座では、毎年、地域別の分析を行った「データ分析集」を刊行し、分析結果をデータ提供元の病院や山形県健康福祉部などに定期的にフィードバックしている。また、私が山形県地域医療構想アドバイザーに就任していることもあり、地域医療構想調整会議など、行政の各種会議においても、データ分析の結果を提示し、議論に活用している。そして、山形県内における病院の再編・統合の協議や病院機能の見直しの検討にも関わってきた。DPCデータを中心としながら、厚生労働省などが公表する既存の統計や病床機能報告などのデータも幅広く活用し、更には必要に応じて独自の質問紙調査やヒアリング調査も実施することにより、エビデンスに基づいて、今後の山形県の医療提供体制のあるべき姿を構想する研究活動を展開している。
(2)学部教育学部教育では、医学科4年次に「総合医学演習」の一環で開講される「地域医療学」を担当している。医療計画や地域医療構想など、地域医療を取り巻く制度的な枠組みについて学んだ上で、「地域包括ケアシステム」を中心に、地域における多職種連携や在宅医療の推進など、地域医療の現状と今後の課題についての理解を深め、地域医療に貢献するための基礎的知識を身に付けることを目的に開講されている。地域病院見学実習として、最上町立最上病院、小国町立病院、朝日町立病院にご協力いただき、地域医療の現場のあり様を直接的に学ぶ機会も作っている。また、医学科1年次の「医学概論」や医学科3年次の「研究室研修」の他、医学科4年次の「公衆衛生学」や看護学科2年次の「医療保健福祉論」でも、社会保障制度や医療政策・医療経済に関連する部分の講義を分担して受け持っている。医療と社会との関わりを巡る諸問題について、学生のうちから考えを深める機会を持てるよう、講義を実施している。
(3)大学院教育大学院では、具体的な研究テーマはそれぞれの関心に応じて多様だが、医療経済・政策学に関心を有する医師、看護師、リハビリ職等の医療従事者、病院経営企画担当者、行政実務担当者、製薬企業・医療機器メーカーの職員等、幅広い分野の人々を対象として、エビデンスに基づいた政策立案・経営戦略策定を担える人材を育成するため、理論的かつ実証的な研究の指導に取り組んでいる。実証分析に基づきながら、これからの医療政策や医療機関経営の在り方について深い洞察で考え抜かれた提言を発信できるように指導している。
今後の展望
昨今、「EBPM(Evidence-Based Policy Making)」が提唱されており、医療政策の立案においてもデータ分析の活用が求められている。コロナ禍を経て、社会経済構造が大きく変化する中、医療を取り巻く環境も厳しさを増し、医療の在り方にもこれまで以上に大きな変化が生じると見込まれる。困難な時代だからこそ、エビデンスに基づいて医療政策上の課題を明らかにすると同時に、その解決策を提示していかなければならない。今後とも、学内はもとより、山形県健康福祉部や山形県医師会、関連病院等の関係機関との緊密な連携の下、山形県における持続可能で質の高い医療提供体制の実現に向けて充実した研究活動を展開していく所存である。
出典:「山形大学医学部創立50周年記念誌」

