
山下 英俊 研究科長
日本は従来言われているように国土も大きくなく資源にも必ずしもめぐまれていない国であるが、これまでの大きな発展を達成したのは多くの人材が「知恵」をだして、日本のためだけでなく人類のために大きな貢献をしてきたことによると考えられる。このような人材はきちんとした教育システムのなかで大切に育成していく必要がある。上記の「智恵」のなかでも医学、その基礎になっている生命科学は日本社会のもっとも関心のある医療、保健分野の進歩、発展を推進するものの一つであり、極めて重要な分野である。2000年のWHOのWorld Health Report, 2009年のOECDのレポートともに日本の医療は世界一とランクされていることからもその重要性と世界をリードする責任の重さが理解できる。
山形大学大学院医学系研究科は医療、保健分野の多くの問題を解決し、日本のみにとどまらず世界に貢献するような人材を輩出するために設置され、発展を続けてきた。近年、嘉山孝正前山形大学医学部長、大学院医学系研究科長(在任平成15年10月〜平成22年3月)のもとで多くの改革がなされてきた。その基本的なコンセプトは、医学、医療の発展を目指すという明確な目的、価値観(Medical Significance)をもった医療人育成を目指すための魅力ある大学院として若くて優秀な人材を迎え入れ、世界に輩出する体制を整備するというものである。それが現在の山形大学大学院医学系研究科のコンセプトとなっている。
特徴は:
1.体系的で高度な学識を備えた医療人、医学研究者を育成するため大学院カリキュラムを整備した。
2.専門の研究領域として、従来の領域に加え、下に示すように多くの特徴あるコースを設定し、山形大学大学院医学系研究科の広い範囲の教育スタッフから指導を受けられる体制を整えた。これにより、広がりのある学識をもった医療人育成をめざす。
がんプロフェッショナル養成:医学専攻と生命環境医科学専攻にはそれぞれがんプロフェッショナル養成専修を設けており、医学専攻では腫瘍専門医(放射線腫瘍)コース、腫瘍専門医(がん薬物療法)コース、生命環境医科学専攻ではがん専門薬剤師養成コース、がん治療専門診療放射線技師コース、乳腺腫瘍専門診療放射線技師コースを設けている。
ゲノムコホート研究:医学専攻に新たにゲノムコホート研究コースを平成23年度から設置し、分子疫学に基づき、がん・生活習慣病等個人の体質に合わせた病気予防やオーダーメイド医療の開発研究等を行う。
医薬品医療機器評価法研究:医薬品・医療機器の開発から市販後の各段階において、その有効性と安全性を判断する新たな調査手法や評価手法開発の研究を行う。また、平成22年度に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と連携大学院協定を締結し研究指導の体制を整えた。
3.社会人入学を可能にし、e-learningの導入をおこなったことなどにより、医療現場にいる医師の研究能力、医療人としての広く深い学識の獲得と同時に医療人としての資格取得を目指すことができる。これにより、山形県の地域の医療に従事しつつも世界最先端の知識、技術を習得できる体制を整えた。地域医療活性化の核になる人材育成を推進している。なお、医学専攻のがんプロフェッショナル養成専修において、腫瘍専門医(放射線腫瘍)コースでは日本放射線腫瘍学会ならびに日本医学放射線学会の「放射線治療専門医」、腫瘍専門医(がん薬物療法)コースでは日本臨床腫瘍学会の「がん薬物療法専門医」を取得することができる。
4.山形大学医学部グローバルCOEプログラム「分子疫学の国際教育研究ネットワークの構築」(拠点リーダー:平成20年〜21年:嘉山孝正医学部長、平成22年〜山下英俊)の一環として、分子疫学研究の今後の重要なテーマであるゲノムコホート研究を大学院教育の主要な柱と位置付け、人材育成、研究の推進を行っている。分子疫学の専門家を育成するコースに加えて各講座の研究テーマに分子疫学的手法を活用する体制をとることにより医学研究者の学識の一つとしての分子疫学の習得を可能とする。このために上記グローバルCOEプログラムにより山形大学医学部に設置された先端分子疫学研究所の教員も大学院生指導に加わっている。
今後、流動化する世界の中で日本が国内の問題を解決しつつ、世界に貢献することにより日本のプレゼンスを高めるために、意欲のある方々に是非、山形大学大学院医学系研究科に入学して研鑽を積んでいただきたいと考えている。