1-5. 室内空気汚染物質を排除するための対策
室内空気中の化学物質濃度は、各建材や家具の化学物質放散量や吸着量、部屋の気密性や換気回数、部屋の大きさ、部屋の温湿度などの因子によって大きく変化します。また、居住者が室内に持ち込むさまざまな家具や家庭用品の影響も大きく受けます。そのため、室内空気中の化学物質濃度低減化対策には、
* 換気による化学物質の排出
* 汚染源の推定及びそのコントロールと除去
* 分解/除去手段の使用
これら3つのアプローチが重要です。
. 換気による化学物質の排出
1) 日常生活で簡単にできる換気による化学物質の排出
最も有効で基本的な化学物質の低減化対策は換気です。換気を行い、室内の空気が十分に外気と入れ替われれば室内空気中の化学物質濃度は低減します。しかし、夏場の高温時や冬場の低温時など、快適な室温等を維持する必要のある場合や、防犯上問題が生じるといった場合など、換気を十分に確保できない場合もあります。
*換気システムがある場合は常時運転する。
*換気システムが無い場合には、トイレや風呂の換気扇を利用する。
*換気口を開ける。(部屋のドアを開けておくと換気に有効)
*こまめに窓を開ける。(特に、鼻や目に刺激を感じた時にはすぐに窓を開ける)
*就寝時や留守にも換気する
2) 新築・改築・リフォーム時のチェック項目
シックハウスの原因となる化学物質の室内濃度を下げるため、建築物に使用する建材や換気設備を規制する改正建築基準法が平成15年7月1日から施行されました。対象は住宅、オフィス、病院等、全ての建築物の居室となります。
*窓は通風や換気を調節できるデザインになっていますか?
*高断熱・高気密住宅の場合、計画的な換気や恒常的換気装置が考慮されていますか?
*開口できる窓の面積は適切で、全ての部屋が自然換気できる構造になっていますか?
*機械換気設備が備え付けられていますか?
*トイレ、キッチン、浴室、洗面、洗濯機が置かれている場所等に換気扇が取り付けられていますか?
*平屋根の住宅の場合、屋根と天井の間に換気できる空間が確保されていますか?
*床下換気は十分に確保されていますか?
*ホルムアルデヒドが使用されている合板や接着剤、壁紙用の糊などが多用されていませんか?
*防蟻剤の使用は適切になされていますか?
*キシレンなどの揮発性有機化学物質を使用した塗料や建材、施工材が多用されていませんか?
*住居の完成から入居までの間に充分に換気を行っていますか?
*工事中は、居住しているところと工事しているところをしっかり分けましょう。
*リフォームした部屋は充分な乾燥期間をとってから使用しましょう。
. 汚染源の推定及びそのコントロールと除去
換気により居住者の体調不良が改善されない場合、汚染源における化学物質の発生量を低減させるか、その汚染源を除去する必要があります。そのためには汚染源の推定が必要です。また、容易に汚染源が推定されず、汚染化学物質や発生場所を推定するために室内空気中の化学物質濃度を測定する必要が生じる場合があります。
1) 汚染源の推定
汚染源の推定のためには、体調不良が生じるようになった過去の経緯を検証する必要があります。新築家屋への入居、あるいは家屋や部屋の改築、防蟻処理などの薬物処理、隣家の改修、庭の農薬散布、部屋の殺菌/殺虫処理、家具や生活用品の購入など、何らかの出来事との関連性を見出すことが重要です。また、特定の部屋において体調不良が生じる、特定の部位から刺激臭を感じるなど、特定の場所や部位との関連性を検証することも重要です。
室内空気環境の改善対策 |
窓開け換気 |
最も効果的。
冷暖房時でも5分程度の窓開け換気を1時間に1回以上行なう。
春から夏場にかけて気温の上昇する時期が、揮発性化学物質の濃度が最も上がる時期であり、この時期は特に窓開け換気を心掛ける。エアコン使用時にもこの換気を忘れないようにする。 |
換気扇 |
換気扇を回す場合は、その対角線上の位置から空気を取り込むよう配慮し、空気の流れをつくる。 |
新築後 |
完成後約2〜3週間通気させてから入居する。それが無理な場合は下記「ベイクアウト」を施す。特に完成後住居内に立ち入った際、鼻にツンとくる臭いがしたり目がチカチカしたりした場合は充分な措置を施す。 |
リフォーム後 |
内装リフォームを施した場合は上記新築同様の措置をとる(但し改装部位により異なる)。やむを得ず居住しながら内装工事をする場合は施工業者と相談し、ほこり、粉塵などを含め空気環境に充分配慮する計画を立てる。 |
ベイクアウト |
築後間もない時期に室内の温度を意識的に上げ(35〜40℃)、放散を強制的に促進させ、室内汚染を低減させる方法。しかし、ホルムアルデヒドに関しては他のVOCに比べ放散効率が悪く、一時的に濃度が減少しても再び上昇し、低減効果は少ないとされている。また、温度を上げすぎると内装材が剥がれたり、建具が反ったりするので注意が必要である |
温度管理 |
住宅建材に含まれる化学物質は気温上昇と共に放散が活発となる。
このような事から、特に夏場は窓から入る直射日光などをできるだけ遮り、外出時には雨戸やカーテンを閉め、室内温度の上昇を防ぐ。また、新築時には庇(ひさし)や軒の出をできるだけ確保し、自然に温度管理ができる設計が望ましい。昔の日本家屋に見られる縁側や庇は、夏場の高い陽を遮り、冬場の低い陽は取り込んで暖をとるといった室温管理の機能を備えていた。ちなみに、最近の住宅はコスト削減のためか、庇や雨戸さえも付いていないものが増えている。 |
空気清浄機 |
換気効果には及ばないが、換気による低減化を補助することによって効果が得られる機種もある。また、屋外大気汚染が著しい場所などでは重要な選択肢となる。 |
家具 |
家具も住宅建材同様、その素材及び接着剤、塗料等から化学物質が放散される。購入時には製品表示を確認し、タンス等は内部の臭いを実際に嗅いでみる。 |
防臭剤
防虫剤 |
(1) タンスの引出しや衣装ケースで防虫剤を使用する際には、標準使用量を守る。
※防虫メーカー標準使用量:10包/50L
(2) 空気より重いため(蒸気比重:5.07)、できるだけ使用を避けるか換気を心がける。
(3) トイレで防臭剤として使用する際には必要最低限とし、換気を心がける。 |
たたみ |
(1) 畳は目に沿って、1枚につき約1分ゆっくりと掃除機をかける。
(2) 湿気の多い畳は業者に頼んで加熱処理を施す。
(3) むし干しをする。 |
寝具
座布団 |
(1) 週に1〜2回、天日干しをする。
(2) 叩いた後は布団専用ノズルで掃除機をかける。
叩くだけだと、内部のダニの糞や死骸が表面に出てきて逆効果となる。
(3) 超高密度繊維カバーを使用する。 |
ぬいぐるみ |
(1) 丸洗いできるものはまめに洗濯する。
(2) 黒いビニール袋に入れ天日干しし、掃除機をかける。 |
加湿器 |
(1) こまめに水を取り替え、洗浄する。
(2) 開放型の石油・ガスストーブは水蒸気を発生させるので加湿は不要。
(3) 相対湿度が50%を超えたら加湿は控える。 |
観葉植物 |
水を与え過ぎない。 |
衣類 |
(1) クリーニングから戻ってきた衣類は一度袋から出し、日陰干ししてから収納する。
(2) 新しい衣類はホルムアルデヒドが残留していることがあるので、一度水洗いしてから着用する。
(3) タンスやクローゼットに使われる合板や塩ビなどから発生する化学物質が移染する恐れがあるため、特にベビー用品等を収納する場合はビニール袋に入れて収納する。収納家具類の中は狭い空間であるため、低濃度の化学物質でも高密度環境となる場合が多い。 |
2)汚染源のコントロールと除去
汚染源が推定できれば、その汚染源をコントロールまたは除去するための対策を検討しなければならない。例えば、家具等の容易に移動できるものは室内から移動する。壁紙や床材であれば貼り替える。床下の防蟻処理であれば散布された薬剤を除去し、さらに土壌中に入り込んでいる薬剤は土壌ごと掘り起こして吸着剤を併用するなどの対策が考えられる。その際は、住宅の設計者や施工業者、公的機関等の消費者相談窓口などに必要に応じて相談する。
。. 分解/除去手段の使用
化学物質濃度が過度に高い場合など、一時的に分解/除去手段等を用いて対応する必要があります。その方法としては、ベイクアウト、空気清浄機、ゼオライトや活性炭などによる吸着があります。これらの方法は、対象とする化学物質や使用方法、メンテナンスが十分行われているかなどによって効果が大きく異なり、全く効果のない場合もあります。そのため、使用前にメーカーや専門家等によく確認し、より適切な方法を選択し、空気清浄機のフィルター交換や活性炭の入れ替えなど、適切なメンテナンスを行う必要があります。以下に、ベイクアウト、空気清浄機、吸着/分解剤に関する研究動向を示します。
1) ベイクアウト
ベイクアウトとは、電気ストーブなどの加熱装置を用いて室内温度を上昇させて30〜40 ℃に数日間保ち、内装建材等に含まれる揮発性の化学物質を室内空気中に強制的に放散させる方法です。
竣工後2〜4ヶ月の新築住宅においてベイクアウト(約30℃、24時間〜72時間)を実施し、実施前後における化学物質の室内濃度変化を測定した研究報告12)によると、ホルムアルデヒド濃度が約23〜52%減衰し、加熱温度を高くするとその効果が増大すること、揮発性有機化合物に対しては、減衰効果が認められないケース(濃度が上昇するリバウンド現象)と数十%の減衰効果が認められたケースがあること、ベイクアウトの実施時間を延長することでその効果が増大する傾向が観察されたことなどが報告されています。
また、実際の室内では何種類もの建材が使用されており、化学物質放散量の異なる建材間でのベイクアウト効果の影響が懸念されます。放散量の差が大きな建材が混在する状況下では、ベイクアウト後において、低放散量の建材に再付着したホルムアルデヒドや揮発性有機化合物の放散により、一時的に放散量が大きくなる可能性が示唆されており、ベイクアウト直後の徹底した換気の必要性が指摘されています。
2)空気清浄機
これまで空気清浄機といえば、たばこの煙や花粉などの粒子状物質を物理的に除去フィルターを通じて除去するタイプの機器が市販されていました。しかしながら、室内空気中の化学物質汚染の問題が取り上げられるようになり、最近ではホルムアルデヒドなどのガス状物質を除去対象とした空気清浄機が開発されています。その原理は、多孔質形状を利用して化学物質をその孔の中に物理的に吸着させる物理的手法と、化学反応を利用して化学物質を分解する化学的手法です。
吸着/分解剤にはホルムアルデヒド除去効果が期待されるものもあるが、そのメカニズム、長期間での使用に対する効果の有無、メンテナンス基準などが、まだ十分明らかにされていない。そのため、今後のさらなる研究が必要です。