1-3. シックハウス症候群の発生原因・物質
シックハウス症候群が頻発するようになった背景には、次のような3つの要因が考えられます。
1)住宅建設や日常生活で化学物質が多用されるようになったこと。
2)住宅建設が省エネルギ−設計で高気密になったこと。
3)生活習慣によって、自然換気が不足する状態となったこと。
室内空気質に影響する因子には、化学物質を含めて次のようなものがあります。
| 化学的因子 |
無機物 |
気体(CO2、NO2、SO2)、液体、粒子(鉱物) |
| 有機物 |
揮発性(ホルムアルデヒド、殺虫剤)、粒子状物質(ばい煙、たばこ煙) |
| 生物学的因子 |
細菌 |
ウイルス、バクテリア、菌類、かび、原生動物 |
| 植物 |
種子植物(花粉) |
| その他 |
けっ歯動物・ペット(皮膚片、毛)、ダニ(ハウスダスト)、蚊 |
| 物理学的因子 |
変性 |
温度、湿度、光、音 |
| 不変性 |
電離放射線、電磁場 |
室内空気汚染物質の発生源と主な汚染物質には、次のようなものがあります。
| 建築材料 |
合板、集成材 |
ホルムアルデヒド、トルエン |
| 断熱材 |
スチレン、フタル酸エステル類 |
| 塩ビ系壁紙 |
フタル酸エステル類 |
| 木材保存剤、防蟻剤 |
有機リン系、ピレステロイド系化合物 |
| 家庭用品
備品
|
洗浄剤 |
テトラクロロエチレン、アルコール類、塩化メチレン、アセトン |
| 塗料、スプレ− |
トルエン、キシレン、アルコール類、ノルマルヘキサン |
| 殺虫剤 |
パラジクロロベンゼン、ピレステロイド系、有機ハロゲン化合物 |
| 芳香剤 |
プロピレングリコ−ル、エチルエ−テル、アセトン、エチルアルコール |
| 家具、絨毯 |
ホルムアルデヒド、スチレン、エチレングリコールエーテル |
| 生活起因 |
暖房 |
二酸化炭素、窒素酸化物、一酸化炭素、二酸化硫黄、メタン |
| 燃焼器具 |
二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、プロパン、ブタン |
| 車庫 |
一酸化炭素、窒素酸化物 |
| タバコ |
ベンゾピレン、無機ガス、含窒素化合物、ケトン類 |
| 炊事などの燃焼 |
ベンゾピレン、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、メタン |
| 飲料水 |
トリハロメタン、トリクロロエチレン、クロロホルム |
| 人、動物 |
二酸化炭素、代謝物による揮発性がス |
室内空気汚染物質の形状による分類とその特徴
| 分類 |
化学物質の例 |
挙動(特徴) |
| 有機ガス状物質 |
溶剤
揮発型
|
トルエン、キシレン、酢酸エチルなど希釈溶剤として使用されているもの |
初期に大量に放出されるがいったん全て放出してしまうと、その後は放出されない。短期放散型 |
| 拡散型 |
スチレンなど未反応成分や不純物質が微量に残留 |
徐々に放出され、夏場など気温の高い時期は気中濃度が上がる。長期放散型 |
| 分解生成型 |
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド」 |
加水分解など分解反応によって生成するもので数年経過しても徐々に放出される。長期放散型 |
| 昇華型 |
パラジクロロベンゼン、ナフタレン |
固形物が徐々に気化するもので、製品設計上放出期間は長い。 |
| 有機粒子状物質 |
燃焼生成型 |
多環芳香族炭化水素 |
粒子状の燃焼生成物 |
| 拡散型 |
フタル酸エステル類、リン酸エステル類、クロルピリオス |
気体あるいは液体が粒子に付着して状態で、徐々に空気中に放出される。放出期間は長い。長期放散型 |
| 無気ガス状物質 |
燃焼生成型 |
二酸化窒素、二酸化硫黄、二酸化炭素、一酸化炭素 |
主に燃焼に伴って空気中に放出される。 |
| 無気粒子状物質 |
拡散型 |
カドミウム、アスベスト、グラスウ−ル、マンガン、鉛 |
建材の劣化・分解・密封不足などによって空気中に放出される。長期放散型 |
東 賢一(住まいの化学情報センタ−)、講演スライドより
知ってますか? 化学物質過敏症(2003年12月3日)
室内空気汚染化学物質の汚染濃度低減化とシックハウス問題に対する法規制(2003年2月24日)
1. ホルムアルデヒド
ホルムアルデヒドは、しばしば室内空気を汚染し、シックハウス症候群の原因となる代表的な化学物質の一つです。ホルムアルデヒドは、常温では気体で水に良く溶け、無色で刺激臭を有し、約30%の水溶液は通常ホルマリンと称しています。ホルムアルデヒドには強い殺菌作用があり、従来より温室や土壌の燻蒸剤等に利用されるほか、標本保存剤、消毒剤、防腐剤として用いられています。
居住環境におけるホルムアルデヒドの主な発生源としては、建材、家具、家庭用品等が考えられます。特に、合板・パーティクルボードの接着には尿素-ホルムアルデヒド系接着剤が多用されています。また、ホルムアルデヒドは壁紙用接着剤の防腐剤としても利用されています。
ホルムアルデヒドの人に対する影響は、主に目、鼻、及び喉に対する刺激作用で、具体的には、不快感、流涙、くしゃみ、咳、吐き気、呼吸困難等の症状が表れます。最近、動物実験(ラット)でホルムアルデヒドには発がん性があることが報告されています。
ホルムアルデヒド系接着剤
| 尿素(ユリア)系樹脂 |
ユリア、ホルムアルデヒド |
合板、パーティクルボード、MDF、内装用集成材 |
| メラミンユリア共縮合樹脂 |
メラミン、ユリア、ホルムアルデヒド |
JAS1類合板、パーティクルボード、MDF、集成材 |
| フェノール樹脂 |
フェノール、ホルムアルデヒド |
合板、パーティクルボード、OSB、LVL |
| フェノールメラミン共縮合樹脂 |
フェノール、メラミン、ホルムアルデヒド |
JAS特類合板(構造用合板) |
| レゾルシノール系樹脂 |
レゾルシノール、ホルムアルデヒド |
構造用集成材 |
2. 揮発性有機化合物(VOC: Volatile Organic Compounds)
VOCとは、常温で蒸発(気化)する有機化合物の総称で、発生源には建材、喫煙、暖房器具等があります。その中でも著しく多いのが尿素-ホルムアルデヒド系の接着剤を使った建材や内装材です。ホルムアルデヒド以外のVOC発生源については建材、ビニール壁紙、断熱材、畳、防蟻剤など、ありとあらゆるものが考えられます。
VOC発生源と主な材料
| 発生源の種類 |
主な材料・製品 |
| 建材 |
パーティクルボード(接着剤)、化粧版(接着剤・原料)、壁紙(原料・可塑剤)
断熱材(発泡剤、接着剤)、シール剤(有機溶剤)、プラスチック配管(原料)
畳(防ダニ剤)、フローリング(木)、プラスチックタイル(原料・可塑剤)
塗料(有機溶剤・原料)、でんぷん糊(防カビ剤)、合成接着剤(有機溶剤・原料) |
| 家具・調度品 |
カーペット(接着剤)、タンス(接着剤、防虫剤)、カーテン(難燃化剤) |
暖房・厨房機器
|
石油ストーブ、ガスレンジ(燃料、燃焼生成物)、システムキッチン(接着剤) |
空調機器
|
空調システムのダクト内壁SVOC |
| 日用品 |
化粧品、事務用品、接着剤、芳香剤、消臭剤、滅菌剤など |
電化製品・事務機器
|
掃除機(防菌剤)、コピー機、マーカー(有機溶剤)など |
| 自動車関連製品 |
燃焼、排ガス、内装材など |
建築関連材料と発生するVOC
| 材料 |
発生するVOCの例 |
| 有機溶剤 |
トルエン、キシレン、ヘプタン、アルコール類、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ブチルエーテル、ブチルアルコール |
| 殺虫剤、防蟻剤 |
ケロシン、クロルピリホス、アレスリン、ペルメトリン、フェニトロチオン、ダイアジノン |
| 防菌・防カビ |
チアベンダゾール(TBZ)、p-クロロメタキシレノール、イソプロピルメチルフェノール、ホルムアルデヒド |
| 防ダニ、防虫剤 |
エムペントリン、ヒノキチオール、フェニトロチオン、フェンチオン、TBZ、p-ジクロロベンゼン、ナフタレン、アレスリン |
| 芳香・消臭剤 |
リモネン、α-ピネン、p-ジクロロベンゼン、植物抽出油 |
| 清掃剤、ワックス |
エタノール、デカン、トルエン、キシレン |
| 接着剤 |
ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ヘキサン、アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン |
| 難燃剤 |
リン酸トリブチル、リン酸トリス(2-クロロエチル) |
| 可塑剤 |
フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチルヘキシル |
3.防蟻剤、殺虫剤、防ダニ剤
防蟻剤とは、イエシロアリやヤマトシロアリ等が木質材料を採食して、木造建築物の強度を低下させたり、資産価値を低下させることを防ぐため、土壌や木部に施す薬剤です。防蟻処理には、床下に種々の製剤形態の殺蟻剤を散布する方法の他に防蟻剤を含んだ種々の材料で土壌を被覆する方法があり、これらが主な発生源となっています。我が国における空気中防蟻剤の発生量はほとんど明らかにされていませんが、施工後の期間や気温、湿度、場所、居住環境の換気率によって大きく左右されます。防蟻剤を使用した建築物において、その発生による空気中濃度を低下させる技術は確立していません。
畳やカーペット等に虫やダニが発生することを防止する目的で薬剤が施されている場合があります。これらの薬剤はごく微量ずつ空気中に放散します。また、スプレー式や加熱式の殺虫剤を使用すると室内空気中濃度が急増します。
防蟻剤、殺虫剤、防ダニ剤のほとんどは農薬として用いられるもので、かつては有機塩素系農薬が主体でしたが、現在は有機リン系、カルバメート系、ピレスロイド系のものが大部分です。これらの薬剤には急性毒性、神経毒性、免疫毒性、変異原性・発がん性において注意すべき物質が含まれており、事故事例がいくつか報告されています。
なお、建築基準法により、クロルピリホス(防蟻剤)の使用(平成15年7月まで)は、禁止になりました。
4.内分泌かく乱化学物質
身体の外から侵入して生体の内分泌作用をかく乱する化学物質を、内分泌かく乱化学物質または外因性内分泌かく乱化学物質と称しています。長い名称なので、環境ホルモンという言葉が使われることもあります。環境省は約70種類の化学物質を内分泌かく乱作用が疑われる物質としてリストアップしました。それらの中には室内空気環境に存在する可能性がある物質が含まれています。
室内空気中に存在する可能性がある内分泌かく乱作用を持つと疑われる化学物質
| 分 類 |
物 質 名 |
備 考 |
| プラスチック可塑剤 |
フタル酸エステル類 |
多くの種類がある |
| プラスチック原料等 |
スチレンダイマー・トリマー、ビスフェノールA |
スチレンは生殖毒性がある |
| 有機リン系農薬 |
マラチオン |
現在は使用されていないが関連物質は多い |
| ピレスロイド系農薬 |
ペルメトリン、シペルメトリン、フェンバレレート、エスフェンバレレート |
合成ピレスロイドは家庭用殺虫剤の主流になっている |
| 有機塩素系農薬 |
クロルデン、ノナクロル、ディルドリン 、DDT、HCH(BHC) |
これらの有機塩素系農薬はかつて多量に使用されたが、現在は使用されていない |
| 多環芳香族炭化水素 |
ベンゾピレン |
喫煙や自動車、開放型石油ストーブ、調理器具の使用によって生成する |
引用文献等
堀雅宏:ALIA NEWS,37,30-39(1997)
花井義道,陳永紅,中西準子:横浜国大環境研紀要,22,1-10(1996)
東京都健康安全研究センター 暮らしに役立つ衛生情報 (http://www.tokyo-eiken.go.jp/index-j.html)