母乳中のダイオキシン濃度と授乳による新生児の汚染
ダイオキシンは半減期が長く、自然界において分解されにくいのが特徴の一つです。しかも食物連鎖によって順次濃縮され、魚や肉などをとっている人間の体に最終的に蓄積されることになります。ダイオキシンは脂質に溶解する性質から、体内では特に脂肪組織や肝臓に多く蓄積します。また、脂肪成分の多い母乳も、含有量が高いことが知られています。
1. 母乳中ダイオキシン類の濃度
世界各国で測定されているダイオキシン類の母乳中の濃度は、先進国で高い傾向にあります。我が国における濃度は、他の先進国とほぼ同じくらいであると考えられています。
各国における母乳中ダイオキシン類の平均濃度(pg-TEQ/g脂肪)
国名 都市名 濃度(ppt)
Japan Fukuoka 24
Netherlands rural 37
Norway Tromsoe 19
Poland Bytom 21
Sweden Uppsala 22
Thailand Bangkok 6
UK Birmingham 37
USA Los Angels 17
South Africa 11
Pakistan Karachi 13
Austria Viena 17
Belgium rural 34
Canada Ontario 18
Finland Helsinki 18
Germany Berlin 32
Hungary Budapest 9
India Bombay 6
New Zealand Oakland 6
Yugoslavia Zagreb 12
Vietnam Hanoi 8
Ho Chi Minh 20
Son Be 32
(宮田秀明:環境化学 1, 275-290, 1991)より一部引用
2. 東京都における母乳中ダイオキシン類の濃度調査結果
母乳に含まれるダイオキシン類は初産の方が第2子の場合より高く、母親の年齢が上がるほど蓄積量が多いという傾向が見られます。


母乳中ダイオキシン類濃度調査中間報告「東京都」(98.11.30)
3. 厚生省による母乳中ダイオキシン類の濃度調査結果
厚生省は1997、98年度の2年間、東京都、大阪府、埼玉県、石川県の4都府県で20代後半、30代前半の女性を対象に、出産後5日目、30日目、150日目、300日目の母乳(計320サンプル)のダイオキシン類濃度を測定しております。今回公表された出産5日目・30日目の結果から、ダイオキシン濃度は授乳期間の後の方が低くなることが分ります。

4. 母乳による新生児の汚染
赤ちゃんは、一日にどれくらいの環境ホルモンを母乳から摂取し、体外に排出しているのかを計算してみました。九州大医療技術短大部の長山淳哉助教授によれば、乳児は一日に体重1キログラムあたり70〜340pg(TEQ)/g脂肪ものダイオキシンを摂取しておるそうです。実にこの値は成人の許容摂取量の7〜34倍に相当します。次に排出を考えると、ダイオキシン類は尿からはほとんど排出されないため大便からの排出しかありません。大便からの排出は一日に6.8ng(TEQ)/g脂肪で、排出率にすると約1.7パーセントです。残りの約98パーセントは乳児の体内に蓄積されることになります。この値はダイオキシン類についてだけ考えたものであり、母乳中にはダイオキシンの他にも、PCB、DDTなどの環境ホルモンが含まれております。子供を産んだ母親は、胎盤や母乳を通してダイオキシンを子供へと移動させるので、蓄積量は減少します。ダイオキシンの半減期は5〜10年なので、環境中のダイオキシン濃度が下がれば、20年後には人体内蓄積量はかなり減ることになります。実際、環境中へのダイオキシンの排出を規制し、また主食が牛(牛乳生産などによって絶えずダイオキシンが排出される)などの肉や酪農製品である欧米諸国では、体内蓄積量がかなり減少していることが明らかになってきました。しかし主食が魚(食物連鎖の結果、ダイオキシン濃度は高い)である日本では、たとえ早急に対策を講じたとしても、すぐに規制の効果が現れるということはあまり期待できません。
今日、母乳がダイオキシン類などによって汚染されていることは明らかです。しかし、現在のところ子どもを母乳で育てるか、それとも汚染を避けるために人工乳で育てるかは母親の考えにまかされております。WHOなどは、「母乳中にはダイオキシンやPCBが含まれているが、母乳栄養には乳幼児の健康と発育に関する利点を示す明確な根拠があることから、母乳栄養を奨励し推進すべきである」としています。