環境ホルモンの目次
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5. 環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)にはどのようなものがあるか

 正常なホルモン作用に障害をもたらす可能性がある物質をグループ別に分類し、簡単に説明します。(情報源:国立医薬品食品衛生研究所)

1). ヒトなど動物の性ホルモン
 一般に、動物の生体内で合成されたホルモンを内因性ホルモンと呼びます。これに対して例え天然物であれ、生体の外から入ってくるホルモン系の作用物質はすべて外因性であり、生体内の正常なホルモン作用を狂わせる可能性があります。したがって、ひとたび環境中に排出された動物のホルモンは、他の動物に対する潜在的な内分泌撹乱物質となる可能性があります。

2). 合成エストロゲン
 合成エストロゲンとは医薬品としての使用を目的として合成された天然のエストロゲンの類似物質です。合成エストロゲンは内因性のエストロゲンの働きが阻害された結果、種々の不調に悩まされている患者の治療や、避妊薬(ピル)として開発されました。この種の薬物として、最初に大量に使われ、それゆえに後に数々の副作用が報告され、作用機序が詳しく研究された物質が、ジエチルスチルベストロール (Diethylstilbestrol , DES)です。DESの副作用は、それを投与された患者より、投与された患者の子供達によりはっきと、より深刻な形で出現しました。
 1938年、英国の科学者が、体内で天然エストロゲンのように作用する化学物質DESの合成に成功しました。この物質はステロイド骨格を持たない卵胞ホルモン剤で、エストラジオールとほぼ同程度の女性ホルモン作用を持ち、受精卵の子宮での着床を阻害する作用があるので、経口避妊薬として用いられておりました。また奇跡の薬物としてさまざまな問題を抱えた妊婦に切迫流産防止のためにも投与されました。農家ではニワトリや雌ウシを急激に太らせるために利用されました。
 しかし、その後の研究により、DESが招いた最大の悲劇は、それが流産予防には何の効力も発揮しなかったという事実でした。さらに「奇跡の薬」とうたわれたDESには、何の薬理効果もないどころか、流産、早産、新生児の死亡の増化に拍車をかけていたことが判りました。また、母親がDESを使用して生まれてきた子供達の、生殖器癌や奇形、関節炎などの免疫系の障害、精巣の下降不全は統計的に明らかに増加しており、成長してからの精子数も減少しておりました。

3). 植物エストロゲン
 植物エストロゲンとは、植物の中に見い出される女性ホルモン様物質のことで、コルボーンらは文献的検索からこうした物質はおよそ300種類の植物から見つかっており、その中で比較的よく調べられている物質が20種程度あることを見い出しました。これらが動物に摂取されると、エストロジェンの生合成や代謝に影響を及ぼし、エストロジュン類似作用と抗エストロジェン作用を及ぼす可能性があることが知られています。植物エストロジェンは,有機塩素化合物などでエストロジェン類似作用を有するとされる化学物質に比べて、はるかに多くの量が食事などから摂取されております。
 しかし、天然内分泌撹乱物質は、一日もあれば体外に排出されてしまうため、体内に何年も残留してしまう合成化学物質に比べると、その影響は少ないと考えられますが、内分泌かく乱化学物質による影響を検討する場合には,植物エストロジェンについても検討していく必要があります。

4). 農薬

 農薬は内分泌撹乱物質として疑われている物質の中の最大のグループです。環境汚染物質としての農薬の特徴は
(1)広域の環境中で使われることを目的としているため、大量かつ広範囲に使われ、土壌よりも、大気や水系で拡散、移送されている。
(2)生物に強力に作用することを目的に開発されているので、目的の生物に影響を与えるだけでなく、他の生物にも予想外の被害を与える可能性が高い。
(3)危険性、有害性が判明し、生産や使用が規制されるようになっても、すでに環境中に存在しており、しかも分解し難いものについては、除去が困難である。さらにある国々で規制しても、他の国では依然として生産したり、使用したりしていることがある。
(4)環境中では極めて低濃度でしか存在しなくとも、食物連鎖を通じて濃縮され、ヒトに影響を及ぼすほどの濃度で母乳や食物に含まれる可能性がある。
 内分泌撹乱物質の候補にあげられている農薬のリストの中には、生産・使用がすでに規制の対象となっているものが多い。ただそうした物質が規制の対象となった理由は生殖毒性のように内分泌撹乱と密接に関係してはいても、内分泌撹乱作用そのものではなく、現在こうした物質を内分泌撹乱作用との関係で調べ直す作業が進んでおります。
 農薬は用途によって、除草剤、殺菌剤、殺虫剤、防腐剤などに分類されます。イボニシ(貝)の繁殖低減をもたらした有機スズ化合物は船底に付着して船足を弱める貝類対策として、船や漁網などの塗料にまぜて使われていたものです。

5). 工業化学品
 このカテゴリーで問題となっているのは、プラスチックに酸化防止や可塑剤などとして含有されている化合物(添加物)です。現在広く使われているプラスチックは、ポリプロピレン(PP)ポリエチレン(PE)ポリスチレン、(ポリ)塩化ビニル、ポリカーボネートなどを主成分としております。これらの主成分に、さまざまな性質をもたせるための各種の添加剤、色づけのための色素物質などを加えて製品が出来上がります。
 プラスチック製品に内分泌撹乱物質が含まれていることが疑われたのは、アナ・ソトらのホルモン感受性の培養癌細胞を用いた実験に端を発します。増殖を促す試薬(エストロゲン)を全く投与しなかった細胞群が増殖したことから、プラスチック容器からの癌細胞増殖因子の溶出が疑われ、検出されたのがノニルフェノールでした。現在、アルキルフェノールとアルキルフェノールエトキシレート、ビスフェノールA、フタル酸エステル、さらにスチレンなどが内分泌撹乱物質の候補にあげられております。

 どのプラスチックからどのような環境ホルモンが溶出しているのか、リストアップしてみました。
a. カップ麺の容器からスチレンが溶出。(横浜国立大学環境科学研究センター)
b. ほ乳瓶からビスフェノールA。(横浜国立大学環境科学研究センター)
c. 学校給食で使う食器からビスフェノールA。(東京都立衛生研究所ほか)
d. 抗菌塩ビ系ラップから、ノニルフェノール。(環境ホルモン市民テーブル)
e. 缶詰の内面塗料からビスフェノールA。(製缶会社調ベ)。
f. 塩化ビニールのオモチャからフタル酸エステル類。(市民団体グリーンピース)  

 一体なぜ、プラスチックからこのような環境ホルモン物質が外に溶け出してしまうのだろうか。
プラスチックを加工するときには、燃えにくくするための難燃剤、加工しやすくするための可塑剤など、約10種類の添加剤が使われます。ガラスや陶器は800度からl000度という高温で焼き固められているので化学物質は外に出にくいが、反対にプラスチックはせいぜい200度〜300度で形成するので、表面は柔らかく内部にある化学物質が外に溶け出しやすいのだという。プラスチックは食品の包製や容器、歯の埋め物(シーラント)として広く使われており、これらからエストロゲン様作用の疑われる化合物が溶出すれば、容易にヒトに取り込まれる可能性はあります。

6). ダイオキシンとPCB
 ダイオキシンは農薬(除草剤)を作る際に偶然にも不純物として生産された物質で、ベトナム戦争で使用されて以来、その毒性が知られるようになり、もとの農薬が使用中止になりました。それで問題は解決したかに見えましたが、日常生活から排出される都市ゴミや産業廃棄物の焼却に伴い、非意図的に生成されていることがわかり、現在、大きな社会問題になっています。ダイオキシンについては別に項目を設けておりますので、そちらを参照して下さい。
 PCB(ポリ塩化ビフェニル)は1881年ドイツの科学者によって合成されたが工業的に利用されることはありませんでした。PCBは熱によって分解されにくく、三塩化物以上は800℃以下では単に蒸発するだけで、完全な分解には1,300℃以上の高熱が必要なため事実上不燃性で、酸やアルカリにも安定な性質を持っております。驚異的な耐火性を持つPCBは飛行機や戦車の油圧オイルとして使われ、軍用宿舎の床タイルや壁の塗料にも混ぜられました。
 1940年代に入ると、新しい用途が考案され、農薬の効力持続剤として用いられるようになりました。DDT、BHC、ディルドリンなどの殺虫剤にPCBを混合して散布すると、殺虫剤を植物に粘着させ、PCBの被膜が薬剤の蒸発を抑制してその効力を長期にわたって持続させ、しかも、PCBには農薬それ自身の毒性を相乗的に高める効果がありました。
 「夢の化合物」といわれたPCBはその後も多岐にわたって利用されていましたが、決して安全と呼べるような物質ではありませんでした。日本や台湾でPCBに汚染された米糠油を食べた、いわゆる油症事件で健康被害が明らかになり、今日では製造、使用とも中止となり、保管が義務づけられております。現在、PCBは生体内でエストロゲン作用と抗エストロゲン作用を示すことが明らかになり、内分泌かく乱物質としてリストアップさ れております。