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森林の減少

目次
1. 森林の働き
2. 人口林と自然林
3. 森林がどんどん失われている
4. 森林減少の原因
5. どうすれば森林を守ることができるのでしょうか

1. 森林の働き

 森林には数多くの生物が棲んでいます。目に見えない微生物から大型動物まで、すべての生物がお互いに関わり合いながら一つの生態系をかたちづくっているのです。

 森林は地球の呼吸を一手に引き受けて、空気をきれいにしてくれます。森林の樹木は光合成によって二酸化炭素と水から酸素と養分を作り出します。まだ森林が存在しなかった40億年前の原始の地球には、大気中に98%もの二酸化炭素が含まれていました。現在は0.03%です。豊かな森林は二酸化炭素を酸素に変える自然の工場なのです。

 森林は、地球の水を管理しています。雨を降らせ、川となって流れます。樹木は根や葉、幹にとてもたくさんの水が蓄えられていて、少しずつ蒸発させています。蒸発した水分はやがて雨雲になり、私たちに恵みの雨をもたらします。また、樹木は降り注いだ雨を地下にしっかりと蓄えています。川は山から流れるのではなく、森林から流れているのです。

 森林は養分をたっぷり含んだ土を作り出します。ここでいう土とは、命を養う栄養分をたっぷり含んだもののことです。森林に生きる生物の糞や死骸、地面に落ちた葉っぱを微生物が分解し、豊かな栄養分に変えてくれます。土は、半径6000万kmの地球表面のわずか1m程の厚さで堆積しているだけです。そして1cmの土を積もらせるのに森林は100年以上もかけています。このとても貴重な土は川の流れによって少しずつ下流に運ばれ、途中、川の氾濫などによって平地に堆積し、農作物を育てる豊かな土壌となっています。川をコンクリートで固めてしまうと、土は途中にたまることなく、どんどん流されていってしまいます。

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2. 人口林と自然林 

 マツやヒノキ、スギなど商業用木材になる樹木ばかりを植えた森林を「人工林」と呼んでいます。しかし、残念ながら私たちが手を加えすぎた人工林は、森林の働きで記したような働きを十分に果たすことができません。

 人工林の樹の種類は大半が針葉樹で、木の実や落ち葉が少なく、土も乾燥しているため、たくさんの生物のすみかになることができません。さらに広葉樹に比べ葉の面積が小さいため、十分な光合成を行なうことができず、酸素をつくる力も弱いのです。同じ種類で同じサイズの樹木ばかりの森林は、病気や害虫にとても弱いという欠点もあります。 

 一方、人間が足を踏み入れる前の状態の森林を「自然林」と呼びます。自然林にはいろいろな種類の広葉樹が生えていて、多くの生物がすんでいます。樹の種類が豊富なので、病気や害虫で全滅することはありません。森を枯らす恐ろしい酸性雨に対しても、人工林に比べ強いといわれています。水を蓄えたり酸素をつくって空気をきれいにしたり、自然林は人工林に比べると10倍以上もの働きを持っています。

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3. 森林がどんどん失われている

 美しい森林がたくさんあるというイメージが強いヨーロッパの森林も、実はほとんど原生林ではありません。17〜18世紀の産業革命の後に切り開かれてしまい、その後200年近くかけて現在の姿にまで回復していますが、あくまで人工林です。

 森林のなかでも最も豊かな生態系を持つ熱帯雨林は、世界の森林面積の約10%ですが、そこには全生物の60〜70%がすんでいるといわれています。しかし森林破壊はほとんど熱帯雨林に集中しているというのが現実です。熱帯雨林が失われていくことにより、地球が何十億年もかけて育んできたかけがえのない生物たちが、私たちの目に触れることなく永遠に消えているのです。

 1980〜1990年の間、世界の森林は毎年約995万haが減少しています。これはおよそ韓国と同じ面積に当たります。かつての地球を覆っていた森林の3/4がすでに失われてしまったとも言われています。原生林はあと24%しか残されていません。失われた森林の大半は熱帯雨林ですが、温帯林や寒帯林も急速なスピードで消滅しているのです。国連食糧農業機関(FAO)の推測では、あと100年もすれば地球上から森林が一本もなくなってしまうほど深刻な状態にあります。
地球温暖化が今のペースで進めば、

1、2100年には温帯や亜寒帯を中心に地球上の森林の40%以上が枯れる。
2、これによって温暖化の原因となるCO2が大気中に大量に放出される。

 と予測されています。(東京工業大と国立環境研究所の共同研究グループの報告)
 同グループは、経済活動とCO2の排出量などを予測する環境研のAIMというモデルに、温暖化と森林との関係に関する新しいモデルを組み合わせ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の温度上昇の推定をもとに、2100年の森林の状況を調べました。

 森林は、気温変化が一定の範囲内でゆるやかなら、それに適応して分布域を移すことができるが、あまりに温度上昇が激しいと適応できずに枯れてしまうと想定されます。仮に100年後に3.5度平均気温が上昇すると、世界の森林面積の43%が消失またはまっ たく違った森林になってしまい、2.0度の温度変化でもその面積は26%に達すると考えられています。

 またユーラシア大陸や北アメリカでは、亜寒帯林や温帯林が大陸を横切るように帯状に消失し、インドやアフリカ、南米でもかなりの面積が損壊、日本ではほとんどの森林が環境変化に適応できず、様相が一変すると予想されています。

 さらに大量の樹木の枯死で放出されるCO2によって、地球の平均気温が2100年に0.1度前後高まるといわれています。実際には地球温暖化だけでなく、大量の森林伐採、無計画の焼畑、酸性雨などで、予想よりも遙かに深刻な事態となることは避けらません。

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4. 森林減少の原因

 1)私たちが紙や木材をたくさん使いすぎているからです。
 先進国に住む私たちは、無意識のうちに大量の木材を使用しています。建物を建てるときに使用するコンクリート枠は、熱帯木材を使い捨てしてきました。コピー機やファックスを使うことが増えて、紙を使用する量も急速に増えています。私たちは「森林をまもろう」と訴えている一方で、どんどん樹木を伐採しているのです。

 2)私たちの便利で快適な生活のために森林が焼き払われています。
 熱帯雨林が減少する原因の一つに「焼畑」があります。焼畑とは本来小規模の森を燃やし、その土地で4〜5年耕作したあとほかの場所に耕作するという農法で、焼かれた森林は数十年後には再生しています。この方法には自然に対する地域の伝統的な知恵が凝縮されていて、決して森林を破壊しつくすということはありませんでした。
 しかし、先進国の企業が大規模に行う焼畑では、森林が土の養分を根こそぎ奪われてしまうので再生できずに砂漠化してしまいます。焼き払われた森林のあとに、巨大な放牧場やコーヒー、ゴム、たばこ、果実の大規模農園が作られます。ここで作られている製品はすべて先進国の私たちが消費しています。また、日本人は世界の中でも際立ってえびの消費量が多いのですが、私たちが安くて大量にえびを手に入れるために、東南アジアのマングローブ林が伐採されてえびの養殖場になっています。

 3)酸性雨が森林を壊しています。
 どこへ行くにも車に乗り、クーラーやテレビなどの電化製品を大量に使う私たちの生活は、雨をレモンよりも酸っぱい酸性雨に変えてしまいました。酸性雨は私たちのからだや生物の命に重大な影響を与えますが、森林にも致命的なダメージを与えます。森林が白く立ち枯れしたり、ちょっと風が吹くだけで倒れてしまったり、森林は私たちの目に見えないところで相当苦しんでいます。春になるとみんなが辛い思いをする花粉症も、実は酸性雨が原因で樹木が弱っているからではないかとも言われています。

 4)私たちがお金のない人達から土地を奪っているからです。
 自然に対する知恵をもって自然とともに暮らしてきた人々からお金持ちが土地を奪っています。貧しい人々は土地を追われ、今までは人が踏み込んでいなかった森林の奥地を開拓し、焼畑をするようになりました。奥地まで行くための道路も建設されました。さらにその土地も奪われ、貧しい人たちが都市に流れ込むという問題も起きています。また、人を死に追いやるエボラ出血熱やエイズも、人が奥地にまで侵入してしまったためにもたらされた病気だとも言われています。

 5)凍っているはずの大地を溶かしてしまいました。
 ロシアの国土の大部分は1〜2m掘ると永久凍土地帯という氷で覆われた大地があります。この凍てついた大地にすらタイガという針葉樹林帯があります。しかし、木材を得るためにこの森林を伐採し、それまで太陽が当たらなかった土地に陽があたるようになったため、永久凍土が溶け始めています。氷が溶けるとそこに池ができ、湖となって周りの樹木が倒れ込むため、次第に池や湖が大きくなっていきます。この氷の中には大量のメタンガスが含まれているため、地球温暖化が加速するという問題も含んでいます。

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5. どうすれば森林を守ることができるのでしょうか。

 日本はフィンランドに次ぐ森林国です。森林などの緑が占める割合(緑比率)が66%で、その約半分が自然林です。日本には古くから「鎮守の森を切るとたたりがある」というような森を守る知恵があり、森林を大切にしてきました。しかし1960年代からの高度経済成長・日本列島改造計画などのブームで景気が上昇し、農林村の人々が都会に集中するようになったころから、森林は手入れする人手を失って荒れ放題となりました。
 人手不足の日本の林業は人件費や材木の価格が高いため、国内木材消費量のうち約7割を外国から輸入しています。安くて大量に手に入るために、大量消費・大量廃棄が定着してしまいました。大量に使い捨てることが普通になっていったのです。

 樹木を伐採することをやめれば、残された森林を失わずにすむかもしれません。しかし、残された森林に全く手をつけないわけにはいきません。自然界のルールと調和をとりながら利用していくことが重要です。森林は樹木の生長量以上に伐採することさえなければ、自然の力で再生することができます。しかし、自然のルールを無視した伐採後は植林によって自然界の再生を補う必要が有ります。大量伐採を行なえば10倍以上の植林を行なわなければなりません。

 森林からの豊かな恩恵はわたしたちにとってかけがえのない財産です。この恩恵を我々の子孫に引き継いでいかねばなりません。そのためには、植林や森林保全のためのコストを木材の価格に上乗せするのも一つの選択枝です。
 紙や材木の値段が上がれば、現在のような無駄や使い捨てが改善されるでしょう。森林再生のため、国際的な取り決めを急ぐと共に、消費者である私たちの意識を変えていくことが重要です。

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