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酸性雨とは

目次
1. 酸性雨とは
2. 水素イオン濃度(pH)について
3. 雨や霧が酸性化するしくみ
4. 酸性雨による被害
5. 山形県における酸性雨の調査研究
6. 酸性雨に対する日本の対策
7. 私たちが日常生活でできること

1. 酸性雨とは

 酸性雨とは化石燃料(石炭や石油)の燃焼などにより生じる硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などが、大気中で反応して酸性の化合物(硫酸や硝酸)となり、地上へ降下するpHの低い雨のことをいいますが、雨の他に霧や雪など(湿性沈着)およびガスやエアロゾルとして沈着する(乾性沈着)ものを全てあわせて酸性雨と呼んでいます。

 従来、酸性雨は先進国における局所的な問題と考えられてきました。しかし、最近の酸性雨の問題は昔の様子とは異なり、被害が地球規模化しています。工場や火力発電所の煙突が高くなると汚染物質が大気の高層にまで広がるようになり、被害が大気の大循環とともに拡大していったからです。酸性雨による被害は広範囲にわたり、汚染物質の発生源から数千キロ離れたところでも起きています。

 近年、中国、東南アジアなど開発途上国における工業化の進展により、大気汚染物質の排出量は増加しており、広域的な酸性雨の被害が大きな問題となってきています。極東に位置する我が国には黄砂をはじめとし偏西風によって大陸からさまざまな物質が飛来してきます。硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)なども例外ではありません。

 現在のところ、日本では明らかに酸性雨による被害と断定された報告は有りませんが、環境省による「酸性雨対策調査」の結果によると、pH4台の酸性雨が全国的に観察されており、今後様々な影響が現れることが懸念されています。

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2. 水素イオン濃度(pH)について

 水の中に含まれる水素イオンの濃度を表わす単位をpH(ペーハー)といいます。pHは0〜14の範囲で示され、真ん中のpH7が中性です。pH7より大きい数字はアルカリ性と呼ばれ、数字が小さいほど酸性の度合が強いということになります。

 空気中にはごくわずかに二酸化炭素が含まれているので、まったく汚染されていない雨でもpH5.6程度の弱酸性を示します。このpH5.6を基準にして、これより酸性度の強い雨、霧、雪などを「酸性雨」と呼んでいます。pHが1小さくなると、酸性の度合いは10倍強くなります。たとえばpH3.6の酸性雨は、通常の雨より酸性度が100倍強いということになります。

3. 雨や霧が酸性化するしくみ

 酸性雨の原因となる物質は主に硫黄酸化物(SOx)と窒素酸化物(NOx)です。これらは石炭や石油などの化石燃料が燃えることによって生じます。自動車の排気ガスや工場の煙突から排出されて大気を浮遊するうちに、太陽光線によって大気中の水分と化学反応を起こして硫酸や硝酸となり、雨に溶け込んで酸性雨となるのです。

 地上に降る雨が酸性化する時点は2回あります。1度目は、雲の中で雨の元になる水滴ができるとき。2度目は、雨となって降ってくる途中です。このときに大気中の酸性汚染物質が水滴の中に溶け込んでいきます。特に降り始めの雨の酸性度が高いといわれるのは、2度目の酸性物質の取り込みによるものと考えられています。

 小雨や霧雨は粒が小さく、表面積が広いため酸性物質の溶け込む量が多くなります。さらに、粒の中に含まれる水分も少ないので中性化が進まず、非常に酸性度の強い水滴となります。酸性度の強い霧(酸性霧)が長い時間樹木に付着することで、樹木に与える影響も大きくなります。また雪の場合は、降り積もった雪がその場所で長期にわたり影響を与え続けるために被害が大きくなるという報告もあります。

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4. 酸性雨による被害

 酸性雨による被害は今に始まったものではありません。産業が早くから発達したイギリスでは、産業革命が始まった17世紀に、既に大気汚染の被害が報告されています。工場の煙突が低くて、煙突から出る煙をきれいにする仕組み(排煙浄化装置)もなかった時代には、限られた狭い地域内で死亡者や重病人がたくさん出るという被害がしばしば起こっていました。

 1952年にイギリスのテムズ川流域でロンドン殺人スモッグ事件と呼ばれる出来ごとがありました。たった5日間で4,000人もの人が死亡したこの事件の犯人は、なんと「レモンよりも酸っぱい雨(pH1.5)」だったといわれています。ヨーロッパでは髪を洗ったら髪の毛が緑色になってしまったという、酸性雨による被害の報告がたくさんあるそうです。アメリカでも森林が枯れたり湖沼で魚が死滅したり、酸性雨による被害が今や大きな社会問題となっています。中国では酸性雨のことを「空中鬼」と呼んでいるそうです。空にひそんで私たちを苦しめる鬼という意味です。

 我が国における酸性雨の被害として記憶されているものに19世紀末に起きた足尾鉱山事件があります。今でも現場では、 周囲の立ち枯れが生々しく、当時の被害の凄さを残しています。1960年以来には、川崎・四日市・尼崎・北九州などで大気汚染による喘息の被害が続出しました。1974年、関東地方では3万人以上もの人が目や皮膚の刺激を訴えています。この時のpHは2で、レモンジュースなみの酸性度を記録しました。現在、全国調査の結果から日本に降る雨の7〜8割が酸性雨と判明しています。

 環境庁の酸性雨対策検討会(座長・大喜多敏一桜美林大教授)による酸性雨調査は93年度から続けられており、第一次(83〜87年度)、第二次(88〜92年度)、第三次(93〜97年度)調査が行われました。第一次、第二次調査では、「酸性雨は広く観測されている」としながらも、「湖水、植生などへの影響は明確な兆候は見られていない」と結論付けています。つまり、「日本には酸性雨の影響がまだ見られていない」としていました。しかし、日光や赤城山などで見られる広範囲にわたる立ち枯れ現象は、酸性雨あるいは酸性霧の影響ではないかと指摘されていました。

 しかし、第三次調査結果からようやく、生態系への影響まで踏み込んだ見解を示し、初めて酸性雨との因果関係を認めました。全国的に欧米並みの酸性雨が降っているとしたうえで、湖沼でのアルカリ度の低下や樹木の立ち枯れが見られると指摘し、酸性雨が日本でも生態系に影響を与えるレベルにまでなっていることを初めて警告しました。
 第三次調査の結果をふまえて、検討会では酸性度が低く、山中にあり人的影響も受けにくい鎌北湖(pH値7.8)でのモデル予測を実施し、現状の酸性雨が降り続けば、土壌の中和能力の減少に伴って湖水のアルカリ度は徐々に低下し、早い場合で30年後に酸性化が始まるとしています。湖には酸性化を中和する能力(緩衝能)があり、少々酸性雨が降ってもpHの低下を抑える働きがあります。
 しかし、この緩衝能が使い果たされると、その後は急激に酸性化が進みなす。酸性度が進むと、底土から有毒のアルミニウムや重金属が溶けだし、湖中の生態系に大きな影響を与えることになります。アルミニウムは死滅した藻類や動物の死骸を集めて沈殿させる働き(凝集沈殿作用)があるため、湖は透明度が上がり、一見きれいになったように見えますが、実は生命の存在しない死の湖となっています。
 一般に、酸性化の進行によって湖の動物や植物の生態は変化し、湖水のpH値が5.0以下になると、魚はほとんど生息できず、「死の湖」になるとされています。

 これまでの研究によれば、酸性雨による被害として考えられる現象には次のようなものがあります。
1)樹木の衰退
 世界各地の森林、特に針葉樹が酸性雨により枯れてしまうという被害が広がっています。毎年落葉し新しい葉をつける広葉樹に対し、針葉樹は何年も葉をつけているため被害が大きいのです。外見では正常に見える森林も、実は酸性雨によってむしばまれていることがあります。じわじわと痛めつけられた木が、寒波や台風などをきっかけに突然枯れはじめ、「白骨化」したり、大規模に破壊されることを「アシッド・ショック」といいます。酸性雨による森林への影響としては、ドイツのシュバルツバルト(黒い森)の被害に代表されるようにヨーロッパでは非常に深刻な問題となっており、また、北米や中国においても大規模な被害が報告されています。

2)土壌の酸性化
 土の中に含まれるカルシウムやマグネシウムは、植物の成長に欠かすことのできない大切な養分です。しかし土壌が酸性化すると、これらの養分は酸と反応して流出してしまいます。栄養不足の土では植物の成長が止まったり、病気に対する抵抗力が弱まり、農作物の収穫量の減少を引き起こします。

3)水生生物の死滅
 正常な湖沼の水は、弱アルカリ性の状態にあります。しかし、酸性雨が湖沼に流れ込み続け、自然の中和能力を超えた時点で酸性化が始まります。積雪のある地域では、春先の融雪初期に積雪中に含まれていた硫酸や硝酸などが高濃度に濃縮されたかたちで放出される現象が知られています。この時期には湖沼や河川水のpHが急激に低下することがあります。この現象はsnowmelt acid shock と呼ばれ魚の孵化の時期と重なることから大きな被害が発生する原因となります。酸性化した湖沼での魚への影響については次のようなことが分かっています。
1. 酸性化が進行した河川では魚は生息できない。
2. 酸性河川には魚は遡上しない。
3. 微酸性でも産卵行動を止めてしまう。
4. 異常な精子や卵子が出現する。
など。

 酸性化が進行すれば、酸っぱい水に強いうなぎを始めとし、ほとんどの生物が死滅してしまいます。酸性化の影響を受けるのは魚だけでなく、貝などの小さな生き物にも大きな影響が現れます。貝は炭酸カルシウムからできており、酸性化の影響を受けやすいからです。また、湖沼の生物も食物連鎖によって繋がっているため、生態系へ与える影響は拡大することになります。
 このため、酸性化した湖沼を中和するために大量の石灰を散布するなどの処置が行われたこともあります。しかし、中和してpHは元の値に戻っても、生態系は元に戻りません。

4)建造物、文化財への影響
 建物の周りに鍾乳石のような「酸性雨つらら」を見ることがあります。これは、コンクリートの中に含まれるカルシウムの成分が酸性雨によって溶け出したもので、建造物の強度を弱くする危険性があります。また、鎌倉の大仏や上野の西郷隆盛像のような野外の銅像に、緑や白の筋状のサビ(アシッドライン)が見られるのも、酸性雨が原因です。

5)人体への影響
 直接酸性雨に触れることはもちろん危険ですが、大切な飲み水も酸性雨に侵されています。金属は酸に溶けやすいので、土の中に固定されていたアルミニウムが酸性雨によって水の中に溶け出します。この水を飲むことでアルミニウムが私たちの脳に蓄積し、アルツハイマー病の原因になっているともいわれています。

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5. 山形県における酸性雨の調査研究

 山形県では平成7年度から平成10年度までの4年間にわたり、県の各試験研究機関の専門分野を結集して、酸性雨や湖沼・土壌・植生などの生態系等の状況を「酸性雨対策総合モニタリング調査」を実施しました。その結果は、環境やまがた推進本部酸性雨問題専門部会において報告書として取りまとめられております。以下は報告書から引用した要点です。

 山形県においては昭和62年より山形、酒田の2ケ所で酸性雨の監視を開始しているが、全国並の酸性雨が観測されている。一部地域では森林の衰退も報告されているが、現在のところ酸性雨との関連は見い出されていない。山形県は日本海に面し積雪量や降雪量が多く、大陸の影響を受けやすいことに加え、沿岸部に大規模な工業地帯が無いという地域的特徴がある。さらに、これまでの研究結果を見れば、汚染物質等の季節的変動が大きく、大陸からの移流も示唆されている。このように山形県は他県には無い特徴があり、酸性雨の調査対象地域として相応しい地域である。

 調査は湖沼とその集水域の8地点を対象として、酸性雨の実態、湖沼・土壌・植生などの生態系及び構造物に対する影響の実態を把握するとともに、継続的な監視を行い、酸性雨による生態系の影響を的確に評価することにより、被害の未然防止を図ることを目的として実施された。
 各年度毎の調査地点は表のとおりです。

 年度  調査地点(酸性雨、湖沼影響、土壌、植生)  調査地点(金属腐食)
 平成7年度  新鶴子ダム貯水地(尾花沢市)

 木地山ダム貯水地(長井市)

 平成8年度  神室ダム貯水地(金山町)

 荒沢Vダム貯水地(朝日村)

 工業技術センター
 平成9年度  沼山大沼(西川町)

 水窪ダムダム貯水地(米沢市)

 工業技術センター
 平成10年度  蔵王ダムダム貯水地(山形市)

 月光川ダム貯水地(遊佐町)

 調査結果の概要
(1) 酸性雨調査
 酸性雨調査では、県内8地点のpHの平均値は4.5-5.3であり、環境庁の第1次-第3次酸性雨調査結果と比較すると、尾花沢市、長井市、金山町、山形市及び遊佐町はほぼ同じレベルであったが、朝日村はやや低く、西川町及び米沢市はやや高い値を示した。また、降水の酸性化に対する硫酸の寄与は硝酸のそれより約2.0-1.6倍大きく、全調査地点ともその比は概ね秋季から冬季にかけて低い値を示した。イオン成分の湿性沈着量は庄内地方の調査地点で高い値を示したが、乾性沈着量は第1次酸性雨調査結果の範囲内の低いレベルにあった。
(2) 湖沼影響調査
 湖沼影響調査では、pHは6-3-7.2で、朝日山系の沼山大沼が63、荒沢ダム貯水池が6.7で弱酸性であった。沼山大沼のアルカリ度は0.06meq/lと低く酸性雨耐性(緩衝能力)は小さく、酸性雨による影響が懸念される。また、荒沢ダム貯水池においても、将来酸性雨の影響を受ける恐れがあることを考慮しておく必要がある。植物プランクトンについては、酸性化で出現する種は観察されなかった。
(3) 土壌調査
 4ケ年にわたった第1次調査によると、緩衝能の高い土壌は奥羽山系に多く分布する傾向にある。朝日山系の土壌は、概して既に酸性化しているCグループに属する土壌の介在が明らかとなった。これらの傾向については、土壌の母材によるところが大きいと考えられるが、今後、継続した検討が必要である。
(4) 植生調査
 植生調査では、現時点において8地点とも樹冠は健全な状態であり、森林衰退などの影響は認められなかった。
(5) 金属腐食調査
 金属腐食調査では、銅板及び鋼板の腐食速度(5段階表示)が2-3段階であり、酸性雨による影響は少ないと考えられる。

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6. 酸性雨に対する日本の対策 

 日本企業は積極的にアジアへの進出を果たしています。中国や東南アジアには、日本企業の工場がどんどん建設されています。こうした「産業の空洞化」により、大気汚染物質の排出源となる工場は日本から減少しつつあります。また、日本では火力発電所や工場、自動車等から排出される大気汚染物質は脱硫装置、脱硝装置が取り付けられることで減少しました。

 ところが、アジアからの大気汚染物質や酸性雨は日本海や東シナ海を超えて日本に到着し、大量に被害を及ぼす可能性が高いのです。煙突の高層化によって被害が広い範囲に広がるだけではなく、酸性雨に含まれる大気汚染物質の複合化が進んでいます。日本政府は1994年に「日本にも酸性雨の被害があり、その原因は中国からの大気汚染物質の影響もある」という異例のコメントを発表しています。

 中国の環境問題専門紙によると、大気汚染に伴って酸性雨が降る地域が急速に拡大しております。最近のデータでは、すでに、中国の全国土の40%に達したといわれています。 中部沿海地域の江蘇や浙江などの7省では、酸性雨の影響で、農地1000万ヘクタールが影響を受けており、また、128万ヘクタールにも及ぶ森林にも損害が出ています。 農地および森林の被害額は917億元(約1兆3755億円)の損失だということことが国家環境保護局などの共同調査でわかりました。

 今後、2020年まで酸性雨が拡大傾向にあると予測され、早急に総合的な酸性雨対策が提案されなければならないところですが、中国側の環境問題専門紙による報道では、中国東部の沿海地区の酸性雨は、日本や韓国の影響を受けているためと発表されています。およそ日本側の受け止め方とは逆です。
 北朝鮮の食糧危機が叫ばれ、中国の人口爆発が懸念されるなか、国境を超えた酸性雨問題は今後ますます深刻化していくでしょう。さらに、国内の電力消費は過去40年間で約10倍増えました。自動車の台数も30年間で20倍増えています。近所へ買い物に行くときでさえ自動車を使うほど使用頻度は増えています。ディーゼル車はガソリン車の10倍、大気を汚染するといわれています。一台あたりの汚染物質は改良されても、今の便利で快適な生活を続けるならば、NOxの総量は減ることはありません。

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7. 私たちが日常生活でできること

 酸性雨の原因を理解し、できることから具体的な行動を始めることが大切です。
・省エネルギー対策に協力すること
・自動車の利用を極力控えること

 ヨーロッパでは、「脱自動車」という考え方が普及しています。マイカー通勤の禁止、都会へのマイカーの乗り入れ制限など、自動車の排気ガスによる大気汚染を少しでも減少させようというのが目的です。日本でも鎌倉や熊本などでこうした運動が奨励されています。また、赤信号の時や駐車するときに、エンジンを切るだけの簡単な「アイドリングストップ」運動も、兵庫、京都などで推進され、実践されています。
 ひとつひとつの行動はほんのちょっとしたことのようですが、これらの積み重ねにより、ガソリンの使用量が減り、大気汚染が改善されていくのです。また、電力の使用量を節約することで火力発電所から発生される硫黄酸化物を減少させることもできます。

 私達一人一人が毎月の電気代、ガス代、ガソリン代などを目安に省エネに取り組み、小さな積み重ねを継続することによって、地球規模の酸性雨問題も改善していくことができると考えます。

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引用文献
1. 酸性雨と環境 (財)日本環境衛生センター 酸性雨研究センター
2. 酸性雨対策総合モニタリング調査 取りまとめ報告書、
  環境やまがた推進本部酸性雨問題専門部会