第26回日本医学会総会 2003. 4. 3-6,福岡

【シンポジウム】膵炎・膵癌をめぐる最近の話題 膵嚢胞性疾患:最近の考え方

山形大学第一外科 木村 理

キーワード
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)、粘液性嚢胞腫瘍(MCT)、卵巣様間質、イクラ状腫瘍、主膵管型・分枝型

嚢胞性膵疾患は現在われわれが直面する膵の疾患のなかで重要な位置を占めている.その大きな理由の一つに,最近になって疾患概念の確立された膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal papillary -mucinous tumor:以下 IPMT)が高頻度に発見されるようになったことが挙げられる.IPMTは嚢胞性膵腫瘍に含まれる粘液性嚢胞腫瘍(Mucinous cystic tumor: 以下MCT)との鑑別が必要となる.本稿では,とくにこの点に注目しながら嚢胞性膵疾患の最近の考え方について述べる.
膵嚢胞は仮性嚢胞,真性嚢胞そして固形腫瘍の中心部が壊死した二次性嚢胞に分類される.真性嚢胞はさらに非腫瘍性嚢胞と腫瘍性嚢胞に分かれる.膵癌取扱い規約第5版では,上皮性腫瘍は外分泌腫瘍,内分泌腫瘍,その他に分かれ,その中の外分泌腫瘍は,漿液性嚢胞腫瘍,粘液性嚢胞腫瘍,膵管内腫瘍,異型過形成および上皮内癌,浸潤性膵管癌,腺房細胞腫瘍に分類される.
MCTは厚い皮膜に覆われた球形の,隔壁を有する腫瘍で中年女性の膵体尾部に認められる,という特徴がある.組織学的には卵巣の間質に類似した細胞密度の高い間質で,円形あるいは細長い核と細胞質の乏しい紡錘形の細胞が密に集合した卵巣様間質を有する.これはIPMTは多量の粘液産生にともなうVater乳頭開口部の開大,膵管鏡でみられるイクラ状腫瘍,組織学的には内腔に向かう著明な乳頭状増生と浸潤傾向が少なく,予後は良好という特徴を呈している.IPMTは主膵管型と分枝型に2大別することができる.男女比は2対1と男性に多く,平均年齢は65歳で好発部位は膵頭部である.
MCTとIPMTの鑑別は容易ではない.図の縦の部分,「嚢胞」にはMCTや漿液性嚢胞腺腫などが入る.IPMT分枝型も膵管拡張という点で嚢胞に関係します.また図の横の部分,「粘液を産生する」という観点からはMCT,IPMTの分枝型,主膵管型が入る.そしてMCTとIPMTの分枝型を区別する,つまりこの図では点腺のところの線引きが難しいのである.そのことが今日膵嚢胞の分類や定義,診断や病態,治療の複雑さをもたらしているのである.
MCTとIPMT分枝型を何をもって区別するか,われわれはMCTは夏みかん,IPMT分枝型はブドウの房と,形態で分類するのがいいと考えている.
MCTの切除後の成績は5年生存率40%と決して良好ではない.したがって,MCTは診断され次第,リンパ節郭清をともなう切除術を行うのが原則である.
これに対しIPMTの悪性度では,主膵管型は80%が悪性,分枝型は切除例の48%が悪性で,経過観察例を含めると全体で約20%が悪性である.したがって,IPMTの手術適応としては,主膵管型は診断され次第手術が原則となる.分枝型は経過観察が可能な例が多くみられ,その手術適応はそれぞれの施設で微妙に異なるが,結節隆起の存在や径,拡張分枝径30mm以上などが標準であろう.IPMTに対する手術術式には定型的手術として膵頭十二指腸切除術,膵体尾部脾切除術,縮小手術として腫瘍核出術,十二指腸温存膵頭切除術,膵鈎部切除術,膵分節切除術,脾温存膵体尾部切除術などがある.十二指腸温存膵頭切除術は未だ確立した術式とは言い難く,解剖学的基礎研究を積み重ね技術的な問題点を解決することや,この手術の成功例が機能温存によっていかなる恩恵を受けたかを客観的に示していくことなどが必要となる.
IPMT切除例の5年生存率は約80%と良好であるが,多臓器に浸潤したり,瘻孔を形成していたりするものは予後が悪くなる.切除例の5年生存率は良性群で100%,悪性群で75%であり,悪性群では非浸潤癌86%,膵内浸潤74%,膵外浸潤28%であっった(1).
IPMTの病態はまだ十分に解明されていない(2).腫瘍・非腫瘍,良悪性の病理学的・客観的基準はありうるか,hyperplasia - adenoma - carcinoma sequence は存在するか,良悪性の臨床診断は可能か,良性のものは経過観察でいいのか,どの程度のmaligant potential を有するのか,in situ carcinoma はいつ浸潤するのか,どの程度 in situ にとどまっているのか,どの程度になったら画像診断その他でとらえられるか,浸潤し始めてからも slow growing か,浸潤してから,あるいは浸潤が明らかになってからの手術で間に合うか,さまざまな進展度の病変に対してどのような手術がもっとも優れているか,どのような縮小手術が可能か,などの問題がある.さらに膵内で多発する問題とIPMTの発生した膵に通常型膵癌が発生する問題などがある.
IPMTが膵内で多発する問題は,IPMTの生じた膵臓は全体にすでにIPMTのできやすいポテンシャルをもっているということである.この場合,IPMTに対し膵全摘の適応を考慮しなくてはならない.しかしこれは究極の考え方であり一般的には受け入れがたいものである.残膵からIPMTが発生せずそのまま治癒してしまう可能性は十分にあり,残膵からのIPMTがslow growing で,術後の経過観察中にIPMTが残膵に発見されてから手術をしても手遅れにならないことも考えらる.これが大部分のIPMT症例に当てはまるのなら,モグラたたきの方針で適応となる部分の切除を行い,新たに発生したIPMTの切除を繰り返せばよい.
IPMTの発生した膵に通常型膵癌が発生する問題はIPMTの発生した膵が通常型膵癌の発生母地として重要ということである.IPMTの術後の follow up はかなり慎重になされなくてはならない.

文献 

1. Kimura W, et al. Hepato-Gastroenterol 43: 692-709, 1996. 
2. Kimura W, et al. Pancreas 16: 363-369, 1998.

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