| I. 研究システムについて
大学と関連病院での3年間の初期臨床研修ののち、後期臨床研修をしながら研究するコースと、大学院に入って研究をするコースに大別されます。どちらの研究コースでも、英文論文の1st authorとなり、博士号を取得するのが第1歩目の目標となります。
臨床教室ですから、日常臨床から研究テーマを探し出し、これを臨床研究や基礎研究として結実させることを重視しています。皆さんの研究活動を確実な業績として実らせることは、何よりも教室の若い先生方が活躍していく上で大変大切であると考えています。このホームページにも掲載していますように私達の教室では、若い先生方の論文が次々世界的に評価されています。これは、その先生方の今後の活躍の強い礎となるものです。
博士号取得後は臨床の場にもどりますが、その後、希望があれば海外留学を積極的に奨励しています。現在米国に1人留学中で、来年2月にはさらに1人が米国留学予定です。
II. 現在進行中の研究
1. 臨床研究
1) 腫瘍
当科は、2002年には子宮頸癌27例、子宮体癌18例、卵巣癌20例と非常に豊富ながん手術症例に恵まれています。さらに、本学の病理学教室は婦人科病理に大変すぐれていますので、各症例についてのカンファレンスを定期的に行なうことにより、術後症例について病理からのフィードバック機構を設けup to dateながん治療を心掛け、良好な臨床成績を得ています。この豊富な症例についての臨床的に確実なデータに基づいて、手術術式、化学療法剤や術後管理についての臨床研究を行っています。
2) 中高年女性の健康のケア
女性の平均寿命の延長は著しく、閉経後の期間が人生の約4割を占めるようになってきました。閉経後は、更年期症状・泌尿器生殖器症状(尿失禁や性交障害など)などの不快な症状に加えて、骨粗鬆症・アルツハイマー病・高脂血症や動脈硬化などの疾病が急増します。われわれは、それぞれの疾患の診断・予防・治療について研究し、閉経後女性のQOLの改善を目指しています。
(1)
分子疫学研究:閉経後女性の症状や疾病の発症、さらには、とくにエストロゲンによる治療に対する反応性には大きな個人差があります。そこでわれわれは、ゲノムの個人差すなわち遺伝子多型をSingle Nucleotide Polymorphism (SNP)にて解析することにより、諸症状の発症と治療に対する反応性に関与する遺伝子があるのか否かを検討したいと考えています。SNP解析はゲノム創薬につながる可能性もあるものと期待しています。
(2)
閉経後の動脈硬化に関する研究:われわれは閉経後女性ではほとんど全ての方の血管内皮機能は障害されることを明らかにしました(Maturitas, 2003)。ところが、内頸動脈の内膜中膜に通常は病的な肥厚は観察されません。そこでわれわれは、閉経後に血管内皮機能が障害されてから動脈壁が肥厚するまでの間に血管の弾性度が低下する時期があるのではないかと推測し、血管の弾性度の指標であるPulse wave velocity (PWV)を閉経後経時的に測定しています。これまでに、閉経後血管の弾性度の低下は血管内皮機能よりも遅れて生じ、女性ホルモン補充療法により改善することを明らかにしています。
3) 不妊
少子・少産の時代、不妊症治療は社会的にも重要な課題です。初婚年令の高齢化も不妊症患者の増加の一因です。われわれは、不妊症に積極的に腹腔鏡検査を施行しそれぞれの病態に応じた治療をしています。また、伝統の体外受精?胚移植治療も積極的におこなっています。
ガラス化法による余剰胚の凍結保存は現在広く用いられるようになりましたが、未受精卵の凍結保存はまだ臨床応用レベルではありません。我々は、未受精卵のガラス化法による凍結保存に関する臨床的・基礎的な研究を行っております。
4) 周産期:
(1) 妊娠中毒症と血管機能:妊娠中毒症は重要な疾患でありながら、それを予知する方法は知られていません。われわれは、血管の弾性度の指標であるPWV測定が妊娠中毒症の予知に有用であるか否かを検討しています。
(2) 妊婦の痩せと肥満:近年、ダイエットブームで痩せた妊婦、あるいは逆に、運動不足で肥満妊婦が増えています。われわれは、痩せ・肥満妊婦の周産期危険度を調査し、妊娠中の至適体重増加量も検討しています。
2. 基礎研究
1) 腫瘍:
(1) 卵巣癌化学療法の薬剤耐性化のメカニズム:卵巣癌は婦人科癌の中で最も予後不良な癌です。その理由に、当初、抗癌剤に反応していても耐性となることが多いことがあげられます。われわれは、第一選択の化学療法剤であるT(タキソール)J(カルボプラチン)に対する耐性化に関与する分子を明らかにする(J. Biol. Chem.,1999; Cancer Res.,2000; J. Biol. Chem., 2002)とともに、その分子の機能を失わせる薬剤・遺伝子をマウス卵巣癌モデルに投与し、将来の分子標的治療を目指しています。
(2) SERMによる乳癌発症予防のメカニズム:ホルモン補充療法(HRT)は、乳癌の危険度を増やすことが欠点です。一方、HRTに取って変わると期待されるSelective Estrogen Receptor Modulator (SERM)の1つであるラロキシフェンは乳癌の発症を強く予防しますが、そのメカニズムは明らかではありません。われわれは、ラロキシフェンが乳癌細胞において細胞の不死化に関与するテロメレース活性を抑えて細胞増殖を抑制することを明らかとしました。これはラロキシフェンのchemo-prevention効果の1つの機構であると思われます。
(3) プロゲスチンの乳癌発症に与える影響に関する研究:HRTが乳癌の危険度を増やす理由の1つとして、子宮内膜癌の発症をおさえるためにエストロゲンと併用されるプロゲスチンの関与があります。われわれは、プロゲステロン受容体の発現している乳癌細胞においてプロゲスチンの細胞増殖におよぼす作用とその機構を研究しています。
2) 中高年女性の健康のケアに関する基礎研究
エストロゲンやラロキシフェンが動脈硬化の発症を抑制する機構を血管内皮および平滑筋細胞を用いて、またアルツハイマー病の発症を抑制する機構を神経細胞を用いて研究しています。
(1) エストロゲンの血管内皮細胞保護作用:血管内皮細胞においてエストロゲンおよびラロキシフェンは、核内転写を介さない経路でサイクリンD1の発現を誘導し細胞増殖に導くことを明らかにしました。
(2) エストロゲンの血管平滑筋細胞の増殖抑制作用:増殖刺激下で合成型となった血管平滑筋細胞において、エストロゲンとラロキシフェンは、MAPキナーゼに1つであるp38を介してアポトーシスを誘導したり(non-genomicな機構)、細胞周期をG1期に停止させる(genomicな機構)ことにより、細胞増殖を抑制することを明らかにした。これらの血管の細胞での研究はさらに詳細な機構について検討を進めています。
(3) エストロゲンの神経保護作用の解析:遺伝子導入でエストロゲン受容体を発現させたPC12細胞において、エストロゲンとラロキシフェンは細胞の不死化に関与するテロメレース活性を増加させて細胞増殖を促進することを明らかとしました。現在、アルツハイマー病の原因となるb-アミロイドの影響について検討を進めています。
3) 不妊
排卵された卵子は、受精すると細胞内Ca濃度の周期的変化が見られ、この現象はCaオシレーションとして広く知られています。Caオシレーションは卵の活性化、多精子受精の阻止、胚発育と深く関係することが報告されています。我々は、これまで卵の老化と受精時のCaオシレーションの変化について研究を行ってきました。その結果、卵は排卵後受精せず老化すると、受精時のCaオシレーションが変化し、これは、小胞体のCa制御機構の機能低下に起因することを明らかにしました(Mol Reprod Dev., 1997; Mol
Reprod Dev., 2000)。さらに、このCa制御機構の機能低下は酸化ストレスによるものであることも明らかにしました。現在、酸化ストレスの標的としてミトコンドリアに着目し、ミトコンドリアの機能低下と細胞内カルシウム制御機構について検討を進めています。
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