研究代表者挨拶
このたび、平成19年度厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「脳脊髄液減少症の診断・治療の確立に関する研究班」は、平成22年度厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業として継続されます。本研究班は、「脳脊髄液減少症のエビデンスに基づいた診断基準の確立」と「学会の垣根を取り払い、誰が見ても納得できる総合診療ガイドラインの作成」を目指します。
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)は、50年以上も前に提唱された疾患ですが、近年、脳脊髄液減少症が頭頸部外傷後に続発すると報告されたことに端を発し、あたかも「むち打ち症」の患者さんの全てが脳脊髄液減少症であるかのように誤解され、交通事故の後遺障害として法廷で争われるなど、社会問題化しています。現時点では、脳脊髄液減少症の発症原因や病態などを巡って専門家の意見が分かれており、治療法はおろか診断方法も未確立で、正確な患者数の把握もなされていません。そのため患者さん等から研究の進展を求める声がたかまるとともに、各地の都道府県議会から国の積極的な取り組みを求める意見書が数多く採択されていることは周知のことと思います。
このように専門家の意見が分かれるその理由は、これまで作成された脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の診断基準が、症状中心の基準であったり、判定に診断的治療法(ブラッドパッチをして症状が消えれば本症と診断する)が用いられていて、客観的あるいは科学的所見を診断基準に取り入れていない等、診断基準として満足するものでなかったためと考えられます。このたび立ち上げた研究班では、これまで髄液漏の根拠とされていた画像診断所見の疾患特異性、髄液漏と症状の因果関係を検討することによって、脳脊髄液減少症の科学的根拠に基づく診断基準を作成、新たな診断基準による本症の原因疾患別患者割合、さらに特に問題となっている「むち打ち症患者の中で脳脊髄液減少症患者の占める頻度の把握」等を目的としています。本研究班は、脳脊髄液減少症の診療に関連する8つの学会からの代表と、データを科学的に解析するための放射線診断学および疫学・統計学の専門家から構成されていて、まさに学会の垣根を越えた脳脊髄液減少症の本格的な研究班です。
現在、医療の現場には、例えば『いわゆる「むち打ち症」の愁訴のほとんどは脳脊髄液減少症が原因である』と考える医師がいる一方、『「むち打ち症」の中には脳脊髄液減少症は全く無い』と考える医師も存在します。そこには、過剰医療と見逃し医療、種々の疾病がこの脳脊髄液減少症とされるものに含まれている可能性があります。本研究班の研究成果が、これらの混乱を科学的に解明し、医学的にも社会的にも貢献できることを期待しています。
最後に、本研究班を代表し、脳脊髄液減少症の患者の方々だけではなく、国民の皆様の本調査研究に対する、ご理解とご協力をお願い申し上げます。
脳脊髄液減少症の診断・治療の確立に関する研究班
研究代表者 嘉山 孝正