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2-3. 化学物質過敏症の症状と診断

化学物質過敏症の症状

 化学物質過敏症の症状を障害臓器系統別にまとめておきます。

 障害臓器系  症状
 自律神経  発汗異常、手足の冷え、易疲労性
 末梢神経  のどの痛み、渇き
 精神  不眠、不安、うつ状態、不定愁訴
 内耳  めまい、ふらつき、耳鳴り
 気道  咽頭痛、口渇
 眼科的  結膜の刺激的症状、調節障害、視力障害
 消化器  下痢、便秘、悪心
 循環器  動悸、不整脈、循環障害
 運動器  筋力低下、筋肉痛、関節痛、振顫
 免疫  皮膚炎、喘息、自己免疫疾患

 化学物質過敏症の症状は数多く挙げられています。表以外にも、いらいら、無気力、不眠、頭痛、目がチカチカ、視力低下、鼻がむずむず、鼻水、のどがひりひり、慢性疲労、寝汗、微熱、振戦、アトピ−性皮膚炎、咳、喘息、吐き気、腹痛、インポテンツ、冷感、ほてり、しびれなど症状は非常に多彩です。個人差がありますが、症状は、全身のすべての臓器に出現することが推測されます。また、喘息や皮膚炎等のアレルギー疾患の憎悪を引き起こす場合もあるようです。

 一般的には単に、目のチカチカや鼻のムズムズ、喉のヒリヒリ等の局所の刺激症状だけのことが多いようです。この程度ではただ頑固な風邪が続いているだけと思い込む人も少なくないでしょう。化学物質過敏症という疾患の概念は、未だ十分に確定していないため、自律神経失調症や更年期障害、老化、心身症等と診断されたり、時に仮病扱いされることもあるようです。そのため、ますます症状が悪化したり、心身症を発症することにも繋がる懸念があります。

 発症の原因は、化学物質の居室内空気汚染によるものが多いと考えられており、新築・リフォーム後に突然発症したという例が多数報告されています。但し、発症時期とその可能性については個人差が大きく、それが原因解明の妨げにもなっているようです。このような症状から、化学物質過敏症は日常生活にも大きな支障をきたす場合が多く、化学物質の影響の少ない環境を求め、転地療養生活を強いられている方も居られるようです。

化学物質過敏症の診断

 従来、化学物質過敏症は、近代工業化社会が産み出した環境病という漠然とした概念で捉えられて、一疾病として認められない時期もあったようです。米国においても、多種化学物質過敏症(MCS)に関わる症状を持つ人々は、30歳代から50歳代の職業を持った女性がほぼ80%を占めており、慢性疲労症候群や月経前緊張症候群などとともに、確固たる科学的データがないという事実から、「臨床的な事実として存在しているとは確信できない。」と考えられてきました。
 しかし、米国をはじめとする多国籍軍がイラクを攻撃した湾岸戦争時に、戦地に配備された兵士たちに発生した湾岸戦争症候群によって、その見方が変化しました。「湾岸戦争の兵士の中に、多種化学物質曝露が引き起こす病態を十分に示す兵士が存在すること。その病態が、一般市民の多種化学物質過敏症として知られている病態と関連していること。」が明らかになったからです。
 1989年に多種化学物質過敏症(MCS)の臨床定義として提唱された5つの合意基準は、1999年、「症状が多種類の器官にわたること」という6つめの合意基準が追加され、「多種化学物質過敏症(MCS)に関する同意事項:1999」として発表されました。 
 MCSの診断基準(米国専門医による合意事項)
 1) 化学物質への曝露を繰り返した場合、症状が再現性をもって現われること
 2) 健康障害が慢性的であること
 3) 過去に経験した曝露や、一般的には耐えられる曝露よりも低い濃度の曝露に対して反応を示すこと
 4) 原因物質を除去することによって、症状が改善または治癒すること
 5) 関連性のない多種類の化学物質に対して反応が生じること
 6) 症状が多種類の器官にわたること

 我が国においても、化学物質過敏症に対する理解が深まり、1997年6月、厚生省(現厚生労働省)は、化学物質過敏症と室内空気中の化学物質の関係について次のように発表しています。
 「化学物質過敏症と室内空気中の化学物質の関係については、現時点における定量的な評価は困難であるが、その存在を否定することはできないので、当面は、化学物質を可能な限り低減化するための措置を検討しつつ、今後の研究の進展を待つことが適当と考えられる。」
 1997年8月、厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班が作成・公表した「化学物質過敏症パンフレット」には、化学物質過敏症の診断基準として下記の氓ゥら「の項目が示されています。
. 主症状
 1) 持続あるいは反復する頭痛
 2) 筋肉痛あるいは筋肉の不快感
 3) 持続する倦怠感、疲労感
 4) 関節痛
 5) アレルギー性皮膚疾患
. 副症状
 1) 咽頭痛
 2) 微熱
 3) 腹痛、下痢または便秘
 4) 羞明、眼のかすみ、ぼやけ、一過性の暗点出現
 5) 集中力、思考力の低下、記憶力の低下、物忘れ、健忘
 6) 感覚異常、臭覚・味覚異常、臭気による幻覚
 7) 精神症状:時に興奮状態、うつ状態、精神的な不安定、不眠
 8) 皮膚:アトピー、蕁麻疹、湿疹、皮膚炎症、アフタ、かゆみ
 9) 月経過多、生理時疼痛・異常など
。. 検査
 1) 副交感神経、交感神経の機能亢進または低下を示す瞳孔反応の異常
 2) 視覚空間周波数特性の明らかな閾値低下
 3) 眼球運動の異常、特に垂直面の滑動性追従運動障害(前庭神経障害を含む)
 4) 神経内分泌系の異常
   たとえばbuspirone投与後の prolactin値異常、
   pyridostigmine投与あるいはdexamethasone投与後の成長ホルモン値の異常変動
 5) 誘発試験の陽性反応(必要とされた時は)
   原因とされる化学物質の微量負荷試験(challenge test)、
   または治療によるtherapeutic trialを施行する。
  これらの検査は心因性疾患の除外に必要である。
「. 診断
 他の慢性疾患がすべて除外されていることが、診断に際しての前提で、
 1)主症状2項目 + 副症状4項目が陽性であること。
 2)主症状1項目 + 副症状6項目 + 検査所見2項目が陽性であること。

 (石川 哲、宮田 幹夫:アレルギー・免疫、6巻7号、990-997、1999より)

 化学物質過敏症は、疾患の存在と診断基準を理解した医師がおり、特殊な検査ができる設備を有する研究機関は別として、一般的な病院での確定診断は、困難なようです。特に小児では上記の診断基準が当てはまる例はわずかで、見過ごされてしまう恐れがあります。そこで、現段階では「ある物質と何度か接触して同じような症状が起ることを確認する」ことが、最も実践的な手段と考えられます。もちろん症状は微妙に変化したり、体調等にも左右され、発症する濃度もヒトによりまた時期により変化します。
 診断に大事なことは、明らかに同じような症状を起こす他の病気ではないという点を明らかにすることが重要です。たとえば鼻水や咳が長く続く場合、医師はまずアレルギーを疑うでしょうが、生活環境がどうなっているかを理解してもらう必要があります。症状が長く続き通常の治療によっても軽くならないときは、そうなった環境、状況をじっくり語るべきです。
 受診に際しては、出来るだけ短期間の診察と検査で確定診断(最終診断)を得られるように、今までの病気、住居と周囲の状況、食事習慣、仕事の内容、過敏に反応するものは何か、いつからどのような症状が起こったか、などの項目を説明できるようにまとめておきましょう。