環境ホルモンの目次
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7. 野生動物への影響

 環境ホルモンの野生動物に対する影響については、これまでに魚類、は虫類、鳥類といった動物の生殖機能異常、生殖行動異常、雄の雌性化、ふ化能力の低下などが報告されています。こうした報告は1990年代に入ってから急激に増加しております。それらの原因は作用メカニズムまでさかのぼって逐一明らかにされているわけではありませんが、多くの例で異常が認められた生物が生息する環境中の化学物質との関係が強く疑われております。環境ホルモンの野生動物に対する影響については、エストロジェン様の作用を報じる研究が多くを占めておりましたが、最近ではアンドロジェンの作用を阻害する物質、甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン等の他のホルモンの作用をかく乱する物質に関する報告も見られるようになりました。
 野生動物への影響については報道機関によっても多くの報告が紹介されております。フロリダ州のアポプカ湖に生息するワニについての報告も代表的な例です。1980年に近隣の農薬工場からDDTなどの有機塩素系農薬がアポプカ湖に大量に流入し、ワニの数が激減しました。
 産み落とされた卵の多くはふ化せず、ふ化しても大部分はメスであり、わずかに生まれたオスはペニスの大きさが正常の1/4程度しかなく、交尾ができないようです。また、オスであるにもかかわらず、女性器である卵巣を持っていたり、血液中の男性ホルモンの濃度が極端に低く、ホルモン分泌がメスに近い状態であることも判りました。
 マサチューセッツ州ではPCBに汚染されたオスのベニアジサシの体内に卵巣が発達していることが発見されております。我が国においてもイボニシなどの貝が、船の防汚剤として船底用塗料に含まれるトリブチルスズなどの原因によって、メスのオス化による繁殖低減が確認されています。

  これまで北極・南極は、地球上で唯一汚染のない美しく厳かな白然が残る世界だと思われておりました。しかし、近年、北極のアザラシや白クマ、南極のペンギンなどからPCBやDDTが検出され、特に北極の白クマからはいくつかの化学物質が高濃度で検出されております。
 高温な地域で気化して大気中に入ったPCBやDDTは、気流に乗って運ばれ、北極圏や南極圏に辿り着き、雪や雨と共に地表に降り注ぎます。北極の空から降ってくるPCBの量は米国の五大湖に降る量に匹敵し、有機塩素系化学物質に関しては五大湖の100倍も量が多いといわれています。
 落下した汚染物質は非常に低い気温のため、ほとんど気化することなく、蓄積され、食物連鎖によって次第に濃綿されます。食物連鎖の頂点に立ち、イルカやアザラシを食べる北極グマは環境汚染とは無縁の生態系に住んでいると想像されておりましたが、地球汚染の影響から逃れることはできません。北極グマからはPCB、DDT、ジエスドリン、重金属などが検出されており、90ppmもの高いPCBが検出された個体もあるそうです。
 環境ホルモンの話題では特にヒトの生殖異常に関心が集中し、動物・植物・微生物は無論のこと、それらをとりまく水、空気、土など生物以外の要素についてはほとんど配慮されることはありませんでした。しかし、環境ホルモン問題に根本的に取り組むためには、地球上のすべての生態系を視野に入れて、人間がどのような立場にあるのかを認識することが必要です。地球上のあらゆる生物は食物連鎖などを介して密接にかかわり合っており、一つの種への影響は全体のバランスを変化させることになるからです。